島根県の郷土料理「かしわ餅」とは?サルトリイバラの葉を使う理由や作り方を紹介
島根県は、出雲地方・石見地方・隠岐地方で異なる食文化が育まれてきた地域です。
県内には米やそば、海産物を使った料理だけでなく、季節の行事や農作業と結びついた餅や団子も数多く伝わっています。
その一つが、端午の節句や田植え後の「泥落とし」に作られてきた「かしわ餅」です。
島根県のかしわ餅は、一般に知られるカシワの葉ではなく、丸みのあるサルトリイバラの葉で包むのが大きな特徴です。
県内でも「かたらもち」「まき」「かたりまんじ」などの呼び名があり、同じ料理から地域ごとの言葉と暮らしが見えてきます。
ここでは、島根県のかしわ餅の特徴、端午の節句や田植えとの関係、家庭での作り方、実際に作った人の感想を紹介します。
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島根県のかしわ餅とは?
サルトリイバラの葉であん入りの餅を包む郷土料理
島根県のかしわ餅は、米の粉を水でこねた生地で甘いあんを包み、サルトリイバラの葉で覆って蒸した餅菓子です。
農林水産省の「うちの郷土料理」では、主な伝承地域を島根県内全域、主な食材をサルトリイバラの葉、もち米、うるち米などとしています。
生地はやわらかくもっちりとしており、中には小豆あんやソラマメのあんが使われてきました。
蒸している間にサルトリイバラの香りが餅へ移り、米の素朴な風味とあんの甘さを引き立てます。
子どもの健やかな成長を願う行事食である一方、農作業の合間に食べるごちそうや、家庭のおやつとしても親しまれてきました。
カシワの葉を使わないのが島根県の特徴
「かしわ餅」という名前から、茶色いカシワの葉に包まれた和菓子を思い浮かべる方も多いでしょう。
しかし、農林水産省の資料によると、島根県ではカシワが自生していないため、サルトリイバラの葉を使ったかしわ餅が根づきました。
島根県内では「かたらの葉」「まきの葉」「かたりの葉」など、地域によって葉の呼び名も変わります。
かしわ餅を包むサルトリイバラとは?
山野でほかの植物に絡んで育つつる植物
サルトリイバラは、サルトリイバラ科シオデ属に分類される落葉性のつる植物です。
北海道から本州、四国、九州、琉球まで広く分布し、山野や丘陵地などで見られます。
硬い茎にはとげがあり、長い巻きひげを使って周囲の木や草に絡みながら伸びていきます。
葉は円形から細長い楕円形まで変化があり、縁にはぎざぎざがなく、表面はなめらかです。
4月から5月ごろに淡い黄緑色の小さな花を咲かせ、秋になると球形の果実が鮮やかな赤色に熟します。
雄花をつける株と雌花をつける株が分かれた雌雄異株で、赤い実がなるのは雌株です。
「猿捕茨」という名前の由来
サルトリイバラは、漢字で「猿捕茨」と書きます。
茎にあるとげや巻きひげへサルが引っかかり、抜け出せなくなる様子から名づけられたといわれています。
国立科学博物館の筑波実験植物園でも、バラのようなとげにサルが引っかかることを名前の由来として紹介しています。
「イバラ」という名前がついていますが、バラの仲間ではなく、サルトリイバラ科の植物です。
丸くなめらかな葉が餅を包むのに使われる
サルトリイバラの葉は幅が広く、あんを包んだ生地を上下から挟んだり、全体を覆ったりしやすい形をしています。
表面がなめらかなため、蒸し上がった餅から葉をはがしやすいことも特徴です。
蒸している間に葉の香りが餅へ移り、米の風味とあんの甘さへ爽やかな香りを添えます。
島根県では、身近な山野で得られるこの葉が、季節の餅を包む素材として暮らしのなかで利用されてきました。
地域によって変わるかしわ餅の呼び名
東部では「かたらもち」
島根県東部では、かしわ餅を「かたらもち」と呼びます。
サルトリイバラの葉が「かたらの葉」と呼ばれることから、葉の名前が餅の呼び名にも使われています。
島根県栄養士会のレシピでは、山陰地方の「まきもち」を紹介するなかで、出雲地方では「かたらもち」と呼ばれると説明しています。
西部では「まき」や「まきもち」
大田市を含む島根県西部では、「まき」や「まきもち」の名で親しまれています。
この地域ではサルトリイバラの葉を「まきの葉」や「まきしば」と呼びます。
「まき」という言葉だけでは、薪や巻き物を想像するかもしれません。
島根県西部の食文化では、サルトリイバラの葉で包んだ餅を指す地域の言葉として受け継がれています。
隠岐では「かたりまんじ」
隠岐地方では「かたりまんじ」と呼ばれています。
サルトリイバラの葉も「かたりの葉」と呼ばれており、東部や西部とは異なる地域語が残っています。
隠岐には笹で包む「笹巻き」を「まき」と呼ぶ地域もあるため、同じ「まき」でも指す料理が異なる場合があります。
島根県内だけでも複数の呼び名があることから、かしわ餅がそれぞれの地域の暮らしに深く溶け込んできたことが分かります。
端午の節句と田植えに結びついたかしわ餅
子どもの成長を願う端午の節句の行事食
島根県でも、かしわ餅は男の子の誕生を祝い、健やかな成長を願う端午の節句に作られてきました。
端午の節句は5月5日ですが、かつての農村では田植えの忙しい時期と重なることがありました。
そのため、地域によっては1か月遅れの6月5日に節句を行い、かしわ餅を用意することもあります。
サルトリイバラが新しい葉を広げる初夏は、かしわ餅作りの季節とも重なります。
山で葉を採り、家族で生地とあんを包んで蒸す時間も含めて、季節の行事として受け継がれてきました。
田植え後の「泥落とし」で食べられた
かしわ餅は端午の節句だけでなく、6月から7月ごろの「泥落とし」でも作られていました。
泥落としとは、田植えを終えた後に農作業を休み、食事を囲んで互いの労をねぎらう行事です。
島根県邑南町の食文化資料には、昔は近所の家同士で田植えを手伝い、作業後に2日ほど休んで、まきもちや寿司などのごちそうを作ったことが記されています。
泥落としには、田仕事でついた泥を落として身を清め、農神へ祈りをささげる意味もありました。
甘いあんを包んだかしわ餅は、農作業で疲れた体をいたわるごちそうでもありました。
こうした背景から、かしわ餅は「泥落とし団子」と呼ばれることもあります。
島根県のかしわ餅の味と食べ方
葉の香りとあんの甘さを楽しむ
蒸し上がったかしわ餅は、サルトリイバラの青々とした香りがほのかに感じられます。
なめらかな葉を外すと、白い団子生地の中から甘いあんが現れます。
米の風味を生かした素朴な生地とあんの組み合わせは、温かいうちだけでなく、冷めてからのおやつにも向いています。
家庭や地域によって、生地に使う米粉の配合、あんの種類、葉の枚数、蒸し時間などには違いがあります。
一枚の葉で覆う作り方のほか、二枚の葉で上下から挟む作り方もあります。
葉を外してから食べる
農林水産省の「にっぽん伝統食図鑑」では、蒸し上がったかしわ餅はサルトリイバラの葉をむき、餅の部分をそのまま食べる方法を紹介しています。
葉は餅へ香りを移し、蒸す際の敷き物や包みとして役立つものです。
若くやわらかい葉を食べたという個人の調理記録もありますが、葉の硬さは成長具合によって異なります。
基本的には葉を外して食べると分かりやすいでしょう。
家庭で作る島根県のかしわ餅の作り方

材料(20個分)
農林水産省の「うちの郷土料理」に掲載されている、島根県食生活改善推進協議会提供のレシピをもとにしています。
・団子の粉:500g
・水:400cc
・あんこ:300g
・まきの葉(サルトリイバラの葉):20枚
・片栗粉:適量
作り方
1:あんこを20等分し、包みやすいように丸めます。
2:団子の粉へ水を加え、耳たぶほどの硬さになるまでしっかりとこねます。
3:生地を20等分して平らに広げ、中央にあんこを置いて包みます。
4:あんこを包んだ生地の全面に片栗粉をまぶし、サルトリイバラの葉で覆います。
5:蒸し器へ並べ、12分ほど蒸したら完成です。
やわらかく仕上げるためによくこねる
島根県栄養士会の「まきもち」のレシピでも、団子の粉へ湯を少しずつ加え、よくこねることがやわらかい餅に仕上げるポイントとして紹介されています。
加える水や湯の量は、使用する団子の粉や生地の状態によって調整が必要になる場合があります。
最初から一度に増やさず、耳たぶほどの硬さを目安に生地をまとめます。
蒸し時間もレシピによって異なり、農林水産省のレシピは約12分、島根県栄養士会のレシピは15分から20分です。
使う粉、生地の大きさ、蒸し器の状態を見ながら、中まで火が通っているか確かめてください。
地域や家庭の作り方を尊重する
かしわ餅は長く家庭で作られてきたため、材料や手順は一つに決まっていません。
団子の粉ではなく、もち米とうるち米の粉を配合する家庭もあり、あんには小豆だけでなくソラマメが使われることもあります。
サルトリイバラの葉を一枚使うか二枚使うか、片栗粉や油を使って餅をはがれやすくするかなどにも違いがあります。
まずは参照するレシピの分量と手順で作り、生地の硬さや蒸し上がりを見ながら家庭に合う方法を見つけるとよいでしょう。
かしわ餅を作った人のネットの口コミ・感想まとめ
水をすぐに足さず、よくこねることがポイントになった
サルトリイバラの葉でかしわ餅を作った個人ブログでは、初めに熱湯を加えたとき、生地の水分が少ないように見えたという記録があります。
投稿者は水を追加せずにこね続けたところ、最終的にはレシピどおりの量でちょうどよい硬さにまとまったと振り返っています。
初めてでも工程は意外に簡単だったという感想がある一方、あんに使った小豆が硬く仕上がった点を反省点として挙げていました。
同じ投稿者が後日もう一度作った記録では、上新粉90gに片栗粉10gを加えたことで、前回よりももちもちした食感になったとしています。
ただし、生地をこねる際に手へ強くくっついたことも記されており、やわらかさと扱いやすさの両立には工夫が必要だったようです。
サルトリイバラの香りが仕上がりの印象を変える
投稿では、サルトリイバラの葉で包んで蒸すと、葉の香りが餅へよく移ったという感想も見られました。
後日の調理では、よもぎを加えた生地と加えない生地の両方を作り、サルトリイバラの爽やかな香りを楽しんでいます。
これは一人の投稿者による二度の調理記録であり、すべての作り手に当てはまる感想ではありません。
ただし、よくこねること、生地の水分を見ながら調整すること、葉の香りを生かすことは、家庭で試す際の参考になります。
参考にしたブログ
家庭や地域で受け継がれるかしわ餅
親子で葉を採り、一緒に作る文化が残る
農林水産省の資料では、現在もサルトリイバラの葉を採り、家庭でかしわ餅を作る地域の様子が紹介されています。
島根県邑南町の出羽保育園でも、子どもたちが散歩中にまきの葉を採り、祖父母と一緒にまきもちを作った記録が公開されています。
あんこを丸め、粉をこね、生地であんを包み、葉で包んで蒸す工程を世代を超えて体験しています。
かしわ餅は完成したものを食べるだけでなく、身近な植物を知り、地域の言葉や季節の行事を次の世代へ伝える料理でもあります。
端午の節句の時期には地域で販売される
農林水産省によると、端午の節句が近づくと、島根県内の食料品店や飲食店などでかしわ餅が販売されます。
サルトリイバラの葉が使われる季節の郷土菓子であるため、販売時期や取扱店は限られる場合があります。
購入したい場合は、春から初夏にかけて地域の和菓子店や農産物直売所へ確認するとよいでしょう。
島根県のかしわ餅に関するよくある質問(FAQ)
島根県のかしわ餅と笹巻きは同じ料理ですか?
別の料理です。
かしわ餅は、あんを包んだ団子生地をサルトリイバラの葉で覆い、蒸して作ります。
笹巻きは、米粉の団子へ熊笹の芯を刺し、複数の笹で巻いてゆで、きな粉や砂糖醤油などをつけて食べる郷土料理です。
どちらも端午の節句と関係がありますが、使う葉、形、加熱方法、食べ方が異なります。
隠岐では笹巻きを「まき」と呼ぶ場合があるため、料理名だけでなく、使われている葉や作り方を確認すると区別しやすくなります。
硬くなったかしわ餅はどうすればよいですか?
農林水産省の資料では、時間がたって硬くなったかしわ餅は、蒸し直すとやわらかくなると紹介されています。
加熱するときは葉を外すかどうかを商品の表示や作り方に合わせ、やけどに注意しながら少しずつ温めてください。
サルトリイバラの葉がなければ作れませんか?
島根県らしい香りや見た目を再現するには、サルトリイバラの葉が欠かせません。
一方、団子生地とあんだけでも餅菓子として作ることはできます。
野山で葉を採る場合は、サルトリイバラだと確実に判別できない植物を使用せず、土地の所有者や採取場所のルールも確認してください。
まとめ
島根県のかしわ餅は、あん入りの団子生地をサルトリイバラの葉で包んで蒸す郷土料理です。
県内全域に伝わっていますが、東部では「かたらもち」、大田市を含む西部では「まき」、隠岐では「かたりまんじ」など、地域ごとに異なる名前で呼ばれています。
端午の節句に子どもの成長を願って作られただけでなく、田植え後の労をねぎらう「泥落とし」のごちそうとしても親しまれてきました。
米の素朴な生地、甘いあん、サルトリイバラの香りが重なった味わいには、島根県の自然と農村の暮らしが表れています。
現在も家庭や地域の行事で作られており、葉を採るところから親子や祖父母と一緒に体験できることも、かしわ餅の大切な魅力です。


