島根県の東部には、殻付きの赤貝を調味液で蒸し煮にする「赤貝がらん蒸し」が伝わっています。
農林水産省では、出雲地方を主な伝承地域とする郷土料理として紹介しており、「赤貝の殻蒸し」とも呼ばれます。
料理名だけを見ると寿司種のアカガイを想像しやすいのですが、島根県で使われてきた赤貝は、標準和名をサルボウガイという別種の二枚貝です。
かつては島根県と鳥取県にまたがる中海で大量に水揚げされ、冬の食卓や正月料理に欠かせない身近な食材でした。
ここでは、赤貝がらん蒸しの特徴、「がらん」という名前の由来、中海で受け継がれてきた背景、家庭での作り方を紹介します。
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島根県の赤貝がらん蒸しとは?
出雲地方に伝わる赤貝の蒸し煮
赤貝がらん蒸しは、殻付きの赤貝を酒、だし、醤油、みりんなどで蒸し煮にした料理です。
調味液を沸騰させてから赤貝を加え、蓋をして加熱します。
途中で鍋を揺すって貝を混ぜ、口が開いたものから取り出すのが特徴です。
「蒸し」という名前が付いていますが、蒸し器を使う料理ではありません。
鍋の中に少量の調味液を入れ、蓋をして蒸すように火を通すため、蒸し煮に近い料理といえます。
農林水産省の「うちの郷土料理」では、だし、みりん、淡口醤油を使うレシピが紹介されています。
一方、JAしまね出雲女性部の赤貝の含め煮では、水、濃口醤油、酒、砂糖を使っています。
家庭によって、だしを利かせた味、砂糖を加えた甘辛い味などの違いがあります。
寿司種のアカガイとは別のサルボウガイ
島根県東部で「赤貝」と呼ばれている貝は、標準和名ではサルボウガイです。
一般に寿司や刺身で知られるアカガイとは別の種類なので、材料を探すときは注意しましょう。
農林水産省によると、サルボウガイはアカガイより小さく、殻の表面にある放射状の溝も少なめです。
サルボウガイには32本前後、アカガイには42本前後の溝があるとされています。
赤褐色の身を持ち、見た目がアカガイと似ていることから、中海周辺では赤貝の名で親しまれてきました。
「がらん蒸し」という名前の由来
「殻」が訛って「がらん」になったとする説
「がらん」の由来には複数の説があります。
一つは、殻付きのまま調理する「殻蒸し」の「殻」が訛り、「がらん蒸し」と呼ばれるようになったという説です。
現在も「赤貝がらん蒸し」「赤貝のがらん蒸し」「赤貝の殻蒸し」など、いくつかの呼び方が使われています。
貝を洗うときの音から生まれたとする説
もう一つは、殻をこすり合わせて洗うときの音に由来するという説です。
サルボウガイの殻には細かな溝があり、泥や汚れが入り込みやすいため、調理前によく洗います。
ざるや容器の中で貝を洗うと、殻同士がぶつかって「がらんがらん」と音を立てます。
この音が料理名になったとも伝わっています。
どちらか一方に由来を決められる資料は確認できず、農林水産省も両方の説を紹介しています。
中海の赤貝と出雲地方の食文化
汽水湖の中海を代表した水産物
中海は、島根県と鳥取県にまたがる汽水湖です。
汽水湖とは、川から流れ込む淡水と海水が混ざり合う湖を指します。
中海ではかつてサルボウガイが豊富にとれ、地域を代表する水産物の一つになっていました。
農林水産省の資料によると、昭和30年代には1,000トンを超える水揚げがあり、中海は日本一の産地だったとされています。
漁の盛んな時代には、大根島の漁師が毎日のように赤貝を売りに来るほど身近な食材でした。
赤貝漁は漁師にとって冬から春にかけての大切な仕事であり、家庭でも祝い事や日常の食事に赤貝を使っていたと伝わっています。
漁獲量の減少と資源を取り戻す取り組み
中海の赤貝は、年によって漁獲量が大きく変動していました。
さらに、干拓事業や水質環境の変化などが重なり、昭和52年(1977年)を最後にほとんどとれなくなったと島根県の資料に記されています。
その後、島根県水産技術センター、中海漁業協同組合、松江市などが連携し、サルボウガイの資源再生や養殖に取り組みました。
稚貝をかごに入れて水中につるす「かご吊り」による養殖試験などが進められ、平成25年(2013年)には中海産赤貝の出荷が再開されています。
ただし、島根県やJAグループの資料では、県外産のサルボウガイも流通していると案内されています。
赤貝がらん蒸しは、中海の水産資源の変化とともに、材料の入手方法を変えながら受け継がれてきた料理でもあります。
赤貝がらん蒸しは正月料理として親しまれている
冬の味覚からおせち料理の定番へ
サルボウガイは、中海周辺で冬の味覚として親しまれてきました。
特に出雲地方では、赤貝の殻蒸しや含め煮がおせち料理に用いられます。
殻付きの貝を大皿に盛る姿には華やかさがあり、家族が集まる正月の食卓にもなじみます。
JAしまね出雲女性部も、赤貝の含め煮を出雲地方のおせち料理として紹介しています。
味付けや料理名には家庭差がありますが、殻をよく洗い、調味液で手早く火を通す点は共通しています。
赤貝がらん蒸しの味と食べ方
貝の風味を生かした素朴な味わい
赤貝がらん蒸しは、サルボウガイから出るだしと醤油やみりんの味が合わさる、素朴な蒸し煮です。
殻付きのまま加熱するため、開いた殻から身を取り出しながら食べます。
だしと淡口醤油を使えばすっきりとした味に、砂糖と濃口醤油を使えば甘辛い味に仕上がります。
加熱しすぎないことが食感を保つポイント
島根県やJAグループのレシピでは、貝が開いたら加熱を終え、煮すぎないよう注意しています。
長く煮続けると身が縮み、硬くなりやすいためです。
また、農林水産省の郷土料理レシピでは、煮汁に殻の汚れなどが残るため、煮汁ごと皿へ移さず、開いた貝を箸で一つずつ取り出す方法が示されています。
家庭で作る赤貝がらん蒸しの作り方

材料(2人分)
- 赤貝(サルボウガイ):250g
- だし:400ml
- みりん:40ml
- 淡口醤油:40ml
分量と手順は、農林水産省「うちの郷土料理」で紹介されているレシピをもとにしています。
家庭によっては、酒、濃口醤油、砂糖などを使います。
赤貝がらん蒸しの作り方
1:赤貝の殻同士をこすり合わせるようにして、表面の泥や汚れを丁寧に洗います。
2:鍋にだし、みりん、淡口醤油を入れて火にかけ、沸騰させます。
3:赤貝をすべて加えて蓋をし、再び沸騰するまで加熱します。
4:蓋を取り、鍋をガラガラと揺すって上下の貝を入れ替えます。
5:再び蓋をし、火を止めて30秒ほど置きます。
6:蓋を開け、口が開いた貝から箸で一つずつ皿へ取り出します。
7:殻の汚れなどが混じる場合があるため、煮汁は皿へ移さずに仕上げます。
下処理と加熱で注意したいこと
JAしまね出雲女性部のレシピでは、調理前に赤貝を3%の食塩水へ1~2時間つけ、その後、殻をこすり合わせて洗っています。
一方、養殖方法や販売時の処理によって必要な下ごしらえは異なります。
購入時の表示や販売店の案内がある場合は、その方法を優先してください。
二枚貝は加熱不足による食中毒にも注意が必要です。
農林水産省は、加熱調理用の二枚貝を生で食べず、中心部を85~90℃で90秒間以上加熱するよう案内しています。
郷土料理のレシピに記された時間だけで判断せず、貝の大きさ、量、鍋の状態に合わせて中心まで十分に加熱しましょう。
生の貝を洗った水が、ほかの食品や食器へ飛び散らないようにすることも大切です。
赤貝がらん蒸しを作った人のネットの口コミ・感想まとめ
殻を洗う工程に手間がかかる
クックパッドに掲載されている「赤貝のから蒸し」の投稿では、調理そのものは簡単な一方、殻を洗う作業が最も手間だったとまとめられています。
殻の溝には汚れが残りやすいため、殻同士をこすり合わせながら何度も水を替える方法が紹介されています。
ただし、完全に汚れが出なくなるまで洗い続けるのではなく、洗い水がほぼ澄んだ状態を目安にしたという説明もあります。
口が開いた貝から取り出して煮すぎを防ぐ
同じ投稿では、貝を一度に取り出さず、口が開いたものから箸で皿へ移しています。
ほとんどの貝が開くまで鍋を揺すりながら様子を見て、火を通しすぎないことが、身を硬くしないためのポイントとして挙げられています。
一方で、口が開いても身の加熱が足りないと感じる場合は、すぐに引き上げず、十分に火を通すよう注意が添えられています。
簡単で家庭の定番にしやすいという感想
公開されているつくれぽには、「簡単でおいしい」「何度も作っている」「家庭の定番になった」といった感想が見られます。
出雲地方出身の家族に喜ばれたという投稿もあり、故郷の味として親しまれている様子が伝わります。
具体的な失敗例や味付けへの異なる意見は十分に確認できなかったため、調理面では、殻をよく洗うことと加熱しすぎないことが主な共通点になります。
参考サイト
赤貝がらん蒸しに関するよくある質問(FAQ)
赤貝がらん蒸しの読み方は?
「あかがいがらんむし」と読みます。
「赤貝の殻蒸し」は「あかがいのからむし」です。
地域や資料によって、「赤貝のがらん蒸し」「赤貝のから蒸し」と表記されることもあります。
赤貝は砂抜きが必要ですか?
JAしまね出雲女性部のレシピでは、3%の食塩水に1~2時間つけてから殻を洗っています。
ただし、かご吊り養殖の赤貝など、育て方や出荷時の処理によって砂の入り方は異なります。
購入した商品の表示や販売店の説明を確認し、案内された下処理を行ってください。
味付けは決まっていますか?
決まった一種類の味付けだけではありません。
農林水産省のレシピはだし、みりん、淡口醤油を使いますが、出雲地方には濃口醤油、酒、砂糖を使った赤貝の含め煮も伝わっています。
地域や家庭ごとの味を大切にしながら作られてきた料理です。
まとめ
赤貝がらん蒸しは、島根県の出雲地方に伝わる、殻付きのサルボウガイを調味液で蒸し煮にした郷土料理です。
島根県でいう赤貝は、寿司種として知られるアカガイとは別種で、かつて中海を代表する水産物でした。
料理名の「がらん」には、「殻」が訛ったという説と、貝を洗うときに鳴る音から生まれたという説があります。
正月料理としても親しまれ、だしと淡口醤油を使うものや、酒、砂糖、濃口醤油で甘辛く仕上げるものなど、家庭ごとの味が受け継がれています。
家庭で作るときは、殻の溝まで丁寧に洗い、中心まで十分に加熱しながらも、必要以上に煮続けないことがポイントです。
材料の入手方法は以前と変わりましたが、赤貝がらん蒸しは、中海の恵みと出雲地方の冬の食文化を今に伝えています。


